フェムト秒時間分解分光計

図1 装置全体概要

この装置では、まず分子に100フェムト秒よりも短い時間だけ光(ポンプ光とよびます)をあてて、分子に化学反応を起こさせます。次に、反応分子の数の減少や、新しくできた分子の数の増加を、100フェムト秒よりも短い2つめの光パルス(プローブ光とよびます)をあてて、プローブ光の吸収スペクトルを測定することで調べます。

化学反応を起こす分子は、それぞれ固有の光吸収を示します。したがって、調べようとする分子に応じてポンプ光の波長、あるいは振動数を適切に選ばなければなりません。現代のレーザー光学では、
・光パラメトリック発生/増幅(入射レーザー光を2本の光に分ける。発生した2本の光の振動数の和がもとの入射レーザー光の振動数に等しい)
・第二高調波発生(入射レーザー光の振動数の2倍で振動する光を発生させる)
・和周波発生(2本の入射レーザー光がもつ振動数の和で振動する光を発生させる)
・差周波発生(2本の入射レーザー光がもつ振動数の差で振動する光を発生させる)
とよばれる光の波長変換の方法が確立しています。これらの方法を用いると、レーザー光の波長を紫外領域から赤外領域まで、波長にして250ナノメートルから20マイクロメートルまで変えることができます。ポンプ光の波長を自在に変えることができるようになったことで、調べることができる試料の種類が飛躍的に増加しました。

いっぽう、プローブ光の波長は、観測しようとする現象に応じて使い分けられます。これまでは、分子あるいは分子の中の原子団による吸収を、紫外光から可視光にわたるプローブ光を用いて調べる手法が一般的でした。また、分子の構造が変わる様子を見るには、赤外光をプローブ光として分子の振動を観測する方法がよく用いられてきました。わたしたちは、化学反応のカギとして、電子が分子の中を大きく動くことが重要だと考えています。そして、分子の間を大きく動くことのできる電子を観測するには、近赤外光の吸収を調べる必要があると考えました。

そこで、わたしたちは、紫外・可視光、近赤外光、赤外光の吸収を調べることができるよう、3つのフェムト秒時間分解吸収分光計をつくり、組み合わせました。その概略を図1に示します。増幅されたチタンサファイアレーザー(波長800ナノメートル、パルス幅30フェムト秒)を光源に用いています。その出力を2台の光パラメトリック増幅器に導入して、波長可変な2本のレーザー光出力を発生させています。また、チタンサファイアレーザー出力のごく一部をサファイア板やフッ化カルシウム板に集めると、波長800 nmの光を紫外領域〜近赤外領域まで広がる白色光に変えることができます。これらのレーザー光をうまく組み合わせて、紫外・可視、近赤外、赤外の3つの分光計をつくりました。

以下のリンクで、それぞれの分光計について詳しく説明します。
・フェムト秒時間分解紫外・可視分光計
・フェムト秒時間分解近赤外分光計
・フェムト秒時間分解赤外分光計



図2 フェムト秒時間分解紫外・可視分光計概要



図3 フェムト秒時間分解近赤外分光計概要



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